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韓国KDI主催国際会議の参加報告

 

韓国KDI主催

韓日米の学校における経済教育の促進に関する国際会議

(2013年12月12日・13日)

の参加報告

 

山根 栄次

(三重大学)

 

 

 

KDI(Korea Development Institute,韓国開発研究院)主催の「韓日米の学校における経済教育の促進に関する国際会議(2013 International Conference on Promoting School Economic Education in Korea, Japan and the U.S.)に参加した。(会場はソウル市内にあるKDIの建物の中の大会議室)。その様子について報告する。

KDIは,韓国政府の経済政策に関するシンクタンクとのことである。KDIは,以前より学校における経済教育について調査・研究をしており,アメリカや日本の学校における経済教育に関する会議・学会にその職員を派遣している。筆者も,かなり以前からアメリカのNCEE(現在のCEE)の年次総会や日本の経済教育関係の学会でKDIの職員の方と会ったり,話をしたりしたことがある。筆者が韓国の経済教育関係の会議に初めて参加したのは,1994年だったと思うが,日本側では早稲田大学の山岡道男氏がコーディネートされたソウルでの日韓の経済教育に関する会議だったと記憶している。その頃からKDIは,学校における経済教育について調査・研究をしている。政府のシンクタンクが,経済政策の一環として学校における経済教育をとらえているというのは,歴代の日本政府と比べると大きな違いがあるように思う。

今回の国際会議は,KDIが,まずアメリカ・テネシー大学チャタヌーガ校のLucian Ellington氏と相談して企画したと思われる。Ellington氏は,大学で経済学を教えられているが,学校における経済教育について研究され,経済教育に関する教員研修をされている。氏はCEEの会員でもあり,また,NCSS(アメリカの社会科教育の学会)の会員でもある。Ellington氏は,日本を含めたアジア通であり,特に,創刊から今年で18年目になる教育者用学術誌"Education about Asia"の創刊時からの編集長を務めている。筆者にKDIの職員からこの会議への参加要請があったのは,Ellington氏からの推薦があったからとのことである。Ellington氏と私とは経済教育を通じた長い付き合いがあることから,日本側の発表者として推薦をしてくれたのだと思う。この会議には,日本側からもう一人,岩田年浩氏が参加されている。岩田氏については,KDI側から日本の学校における経済教育教員の養成について話ができる人を紹介して欲しいとの依頼が筆者にあったので,昨年に岩田氏と水野英雄氏の編著で『教員養成における経済教育の課題と展望』が刊行されたこともあり,岩田氏を推薦させていただいた。韓国側の参加者は,KDIの職員と韓国の大学で経済教育を研究している教授であり,筆者が以前に会ったことのある方が多かった。聴衆に男性とともに若い女性が大勢いたが,おそらくKDIの職員であろうと思う。

 

会議での発表内容

会議全体のテーマは,"Promoting School Economic Education"(学校における経済教育の促進)であるが,会議は,3つのセッションよりなっていた。第1セッションは,"Directions for School Economic Education"(学校における経済教育の方向),第2セッションは,"Entrepreneurship Education under the 'Creative Economy'"(「創造的な経済」の下における起業家教育),そして第3セッションは,"Trends in Economics Teacher Retraining in Korea, Japan and the U.S."(韓日米における経済教師の再教育の傾向)であった。筆者は第1セッションで,"Trends and Conditions in School Economic Education"と題して,最近の中学校社会科と高等学校公民科における,学習指導要領に示された経済教育に関する記述の特色について発表した。岩田氏は第3セッションで,"On the Gap in the Teachers and Pupils at the Economic Thinking"と題して発表された。ちなみに,Ellington氏は第2セッションで,"Human Action and Entrepreneurship: Case Studies from Economic History"と題して発表された。もちろん,何れのセッションについても,韓国側からの発表があった。

この会議における韓国側の発表について,私が印象に残ったことを以下述べたいと思います。

韓国側の発表は,第1セッションでは,Kim, Jin Young氏の"Economic Education at Crossroads"(岐路にある経済教育),第2セッションでは,Won-jea Huh氏の"Creative Economy and Entrepreneurship: Creative Destruction and Destructive Creation"(創造的経済と起業家-創造的破壊と破壊的創造-),第3セッションでは,Sungshin Lee(女性)"New Directions for Economics Teacher Retraining at EIEC/KDI"(経済情報・教育センターとKDIにおける経済教師の再教育の新しい方向)があった。特に印象深かったのは,第1セッションのKim, Jin Young氏の発表であった。

 

この発表では,学校における経済教育が重要である理由とそれにかかわる最近の韓国における経済・社会状況がまず述べられた。経済・社会状況については,グローバリゼーション,金融・経済危機からの回復,経済的不平等,少子高齢化などが示されたが,何れも日本と同じ事柄であると感じた。

学校における経済教育の状況については,2012年から始まった新しいカリキュラムにおける経済の内容の位置づけと言う形で発表された。発表によれば,カリキュラムにおける経済の内容は,十分ではないということである。具体的には,以下の通りであった。

 

小学校では社会科(韓国では,地理と歴史は社会科(Social Studies)とは別の教科として存在している)の中の8章の中のわずか2つの章が経済学の内容をカバーしている。一つは,3-4学年の「経済生活と望ましい選択」,もう一つは,5-6学年の「韓国経済の成長」である。

中学校では,1学年と3学年における社会科の13章の中で「経済生活の理解」,「市場経済の理解」,「国民経済の成長」,「国際経済学とグローバリゼーション」の4つの章が経済の内容を含んでいる。

高等学校では経済の内容を含んでいる教科は,高等学校・社会,実用経済学,高等学校・経済学の3つであるが,何れも選択教科である。高等学校では,社会関係で必修であるのは韓国史だけで,あとは選択科目だそうです。高等学校・社会に経済の内容は含まれているが,「毎日の生活における合理的な選択」という1章が経済学と関連があるのみである。実用経済学では,パーソナル・ファイナンスの内容が多い。例えば,「貯蓄と資産の管理」,「クレジットと負債の管理」,「就職とビジネス・マネジメント」といった内容である。高等学校・経済学は,大学進学用の正式な経済学の内容で,ミクロ経済学,マクロ経済学,国際経済学をカバーしているとともに,全6章の中にパーソナル・ファイナンスに関する1章がある。

経済学は,大学進学テストとして選択される教科として,年々減少している。2012年入試では11.3%2013年入試では,9.6%2014年入試では,遂に4.1%にまで落ちた。これは,経済学のテストの問題が難しく,他の教科に比べて高得点が取れないからである。選択が多い社会系の教科は,倫理と思想,韓国地理,社会と文化である。そのため,高等学校の選択教科の中で高等学校・経済学を選択する生徒も減少している。経済の教養が必要になってきている現代の韓国社会で,生徒が経済を学ばないことは重大問題である。その解決方法として,パーソナル・ファイナンスの内容を充実させること,経済を教える教師のレベルを高めること,特に教授法を改善すること,教科書の記述が簡単すぎるのでより詳しく分かり易くすることが挙げられる。

 

以上のようなことがその発表の趣旨であった。日本では,中学校社会科公民的分野の内容の4分の一は経済であり,高等学校公民科は2単位必修で,公民科の現代社会か政治・経済の中に経済の内容は含まれているので,高校の生徒が経済を学んでいる程度は韓国よりは高いのかもしれない。しかし,韓国では政府系のシンクタンクKDIが学校における経済教育の推進に協力し,経済を教える教師の再教育にまで手を貸していることを見ると,日本の経済教育も,うかうかとはしておられないと感じられた。